cipolinaの甘い生活

お菓子ときどき旅

Il Mio Bar 

イタリアでの短い留学期間、一番お世話になったのは学校の近くの「bar」です。朝、学校に行く前にカフェを一杯。休み時間に一杯。午後のおやつに、夕食の前にとまぁ一日最低3、4回は通っていたかもしれません。でも何度も行ったのに、最後までちゃんとした名前は知らず、おじいちゃんがやっていたので、勝手に「bar del nonno(おじいちゃんバール)」と呼んでいました。
 本当にカフェを飲みたいときもあれば、トイレを借りるためやむなくという場合もあり、サッと行ってパッと飲んで、その時間は10分にも満たないくらい。トイレを使わせてもらうときは、おじいちゃんにカギを借り、出るときはカギをかけて戻します。「GRAZIE」とお礼を言うと、舌をコロンと鳴らしてウィンクを返すその仕草は、女の子の時だけのスペシャル。夜に行くと「もう遅いから『ラッテ・カルド』(温かいミルク)にしなさい」と、茶目っ気たっぷりの表情で笑わせてくれる優しい人でした。
バールで過ごす時間は、私にとって素顔のイタリア人たちに出会える大事な時間。おじいちゃんとお客さんが交わす会話が少しでも分かればと、カウンターの端っこでいつも耳をそばだてていたものです。
 日本に帰ってきてからは、そんなこともすっかり忘れていました。「スタバのカフェラテだって十分おいしいし」、「家でいれるエスプレッソも悪くないよね」と、特にイタリアっぽいBARを探すこともありませんでした。たぶん、私はコーヒーそのものに興味があるわけではなく、イタリアのBARの雰囲気、そう、あの人間らしいやりとりが交わされる光景が好きだっただけなのかもしれません。しかし、期待することもガッカリすることもなく過ぎた二ヵ月後。私は出会ってしまったのです。 鎌倉の住宅街にひっそりと看板を掲げる本物のBARに。